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2014年8月18日
日の出町のアナグマ調査

今年からスタートした科研費Aのプロジェクトでは、アナグマ (Meles属) の臭いによる個体間コミュニケーションの調査に焦点の一つをおいている。最近は、日の出町の研究は、アライグマ対策を主に行っていたが、久しぶりに、今後4年間は、アナグマ中心のフィールドワークを行うことにした。

日の出町のアナグマの研究は、今年に一つの節目を迎えた。博士学生時代から取り組んできた、日本アナグマの社会構造についての総まとめの論文が、アメリカ哺乳類学会のジャーナルに掲載されたのだ。この、Journal of Mammalogyは、動物学のカテゴリーで上位ランキングに入る、野生哺乳類の生態研究に取り組む研究者にとっては、掲載を目標にする雑誌のひとつである。

掲載された論文(オープンアクセスにしてあるので、無料でダウンロードできます)

Kaneko, Y., Kanda, E., Tashima, S., Masuda, R., Newman, C., and Macdonald, D. W. 2014. The socio-spatial dynamics of the Japanese badger (Meles anakuma). Journal of Mammalogy 95: 290-300

http://www.asmjournals.org/doi/pdf/10.1644/12-MAMM-A-158

 

この論文に先駆けて、日の出町のアナグマの生活環、食性と環境選択、栄養状態や体サイズについては、すでにあちこちのジャーナルに印刷済みである。これらの研究成果(特に、食性と環境選択)をベースにして、アナグマにとっての資源分散と空間配置の特徴を検討し、さらにDNA分析による個体レベルでの地域間の移動可能性の情報も入れ、ニホンアナグマが比較的系統の誓いヨーロッパアナグマ (M. meles) の高密度個体群と異なり、イタチ科本来の雌雄差が明確な単独性社会を有することを結論付けた。

さて、これからはじまる次のプランは、アナグマのコミュニケーションにさらに探りを入れる。アナグマはイタチ科の仲間だから、臭いによるコミュニケーションが盛んであり(現生の食肉目動物が、他種の類似種との競争に生き残れてきた理由の一つでもある)、におい成分は、言ってみれば、臭いとはアナグマにとっての言語である。形態や遺伝的特徴で分類されることが主流である哺乳類であるが、彼らの言語で見てみると、どのような地域構造が現れ、既存の分類結果と違うのかどうかを調べようとしている。壮大な試みであるが、遺伝分野の研究者からも注目されており、学会などで会うと「どうなっているのか」とせっつかれる。

かくして、8月中旬にアナグマ捕獲調査を行った。におい成分は、臭腺からサンプリングをした後にガスクロマトグラフィー分析で化学成分を抽出するのだが、最も気を付けなければならないこととして、サンプリング後すぐに冷凍し、冷凍状態のままで移送しないと、内部バクテリアの活動により酸化して化学成分が変質してしまう。そこは、日本の誇れる「クール宅急便」のお世話になる。体力と作業時間にあふれていた学生時代と異なり、老化し、大学学務と並行で時間もなくなった私であるが、そこは年取った分、知恵で解決。NPOバースのみなさんの手伝いも得て、元気なアナグマ2頭が捕獲された。

日の出町のオスアナグマ(麻酔により昏睡中)。分泌物の量も豊富だった。化学成分の結果はまもなく出る予定であるが、新しい成分はふくまれているだろうか。

 

アナグマのsubcaudal grandから、におい成分をサンプリングしているところ。私の臭いがアナグマの臭いとして検出されないように、コントロール(アナグマ周辺の化学成分)も同時にサンプリングする。subcaudal grandは、尾の付け根(肛門のすぐ上)に、深さ2センチ、幅3センチほどのサイズのポケット状の器官が開口している。ヨーロッパアナグマでは、この腺を家族の仲間の腰の部分にお互いにつけあい、「家族の名札」のようなものとして認識しあっている。餌場などで出会うと、まずは互いにその匂いを確認しあうが、ニホンアナグマでもこの行動はみられる。この分泌物は、巣穴の入り口にフンと一緒にマーキングしたり(巣穴の持ち主としての表札のような意味)、巣穴入り口の地面に念入りにつけたりもされる(巣穴を訪れてきた単独オスからの、来たよ、というメッセージや、中にいるメスの発情状態を示す置き手紙のような意味)。